人間と自然のちょうどいい間合いで遊ぶ
茅(※)でつくられた大きな傘のような屋根が都立明治公園に出現した「#PLAY EARTH PARK StrawPlayground」。屋根の下には稲藁が敷き詰められ、子どもたちは寝転んだり、藁を放り投げたりして遊んでいた。その周囲には竹で組まれた登る遊具や竹を編んだトンネル遊具が設置された。それらを手掛けたのは、茅葺職人の相良育弥さん率いる「くさかんむり」(http://kusa-kanmuri.jp)。全体のディレクションは、丹波篠山でセレクトショップ「archipelago」(http://archipelago.me/)を手がける小菅庸喜さん。
もともと見渡す限りの茅野原で、日々、千駄(たくさん)の茅を刈ったことから千駄ヶ谷という地名となったその土地の公園で、柔らかく子どもを受け入れ、遊びへと誘う遊具たちを作り上げた二人が話す、茅と遊びと人間の力。
※ススキやヨシ、稲わら、小麦わらなどの総称
子どもは自然そのものである
小菅:以前原宿にあるTHE NORTH FACE Sphereというお店で麻を使った球体(sphere)のディスプレイをつくったのが、相良さんとゴールドウインさんの仕事をご一緒させていただいた最初でした。
そのご縁があって今回もお話をいただいて、相良さんと一緒に直接子どもたちが触れて遊ぶものを何か考えてもらえないかと依頼をいただきました。2023年の9月に表参道のGYREでやっていた「衣・食植・住」展(https://gyre-omotesando.com/artandgallery/life-is-beautiful-2023/)で相良さんが展示した、中で寝そべることができる稲藁の小屋のような空間がすごくよくて。稲藁の床にみんなが寝そべるというのをもっと多くの人に体験してもらいたい、藁でふかふかしたところに思いっきり寝てごろごろしてみてほしいという思いから今回のテーマを考え始めました。土地にお腹を晒す、動物的にいえばお腹が開いている状態。閉じた空間で体を開くというのは、心と体の関係において人間的にも大事な行為だと思っています。そうしたことをお話しながら相良さんに何をつくるかお願いした感じでした。実際イベントがはじまってみたら、寝そべるよりも藁をすくって投げてがメインの遊び方になってしまっていましたが(笑)
相良:PLAY EARTHの遊びを通して自然との新しい関係を築いていくというコンセプトは、自分が子ども時代に野山で遊んでいた感覚を表現するのに言い得て妙。そのままその感覚を捉えてつくったのが今回の茅や竹を使った「#StrawPlaygound」になりました。平安時代の歌謡集『梁塵秘抄』にある「遊びをせんとや生まれけん」という言葉をコンセプトにしたのもそうした背景です。
プラスチック遊具にはない自然素材と人間の手業が合わさったものを通じて、人間と自然がちょうどいい間合いで遊べたらいいなと。安心安全ばかりを考えて体で遊ぶよりも先に頭で遊びを止めないこと。世間のどの遊具もですが、多少のアクシデントがおきる余地はあります。さらに今回の遊具は適当な遊び方をすれば壊れることもある。けど壊れても直すことができるんですよね。そこは大事。いろんな場面で遊びが足りない現代にあって、遊び心、余白、ゆとりができて、そこから何かが生まれてくるきっかけになればと思っています。
・・・遊んでも状態や状況が変化しない遊具ではなく、遊ぶうちに状態が変化して行くことで、遊びも変化して行くという意味での”遊び”というか”余白”を今回の遊具たちに感じました。変化する状況にどう対応する次の一手を打てるのか、遊びの中で身に付くことのひとつですよね。
相良:そうなんです。現代の公園遊具が変化する時というのは壊れた時なんですよね。自然は不定形で、不確定で、読めないもの。そういう意味でも都市部にいちばんある自然は子どもだと思うんです。子どもが自由に遊んでるのを見て、大人が自分の中のうちなる自然を呼び起こしてほしい。
・・・茅や藁は普段から遊び道具として利用されるものなのですか?
相良:ワークショップで使ったり、常設で保育園の遊具をつくったりしています。お米の藁を使う時は、みんなが食べているお米の稲だよと話しをすると身近に感じられることもあって教育的にも使いやすいので積極的に使っています。
三つの遊具「こもる」「のぼる」「くぐる」
・・・今回つくった遊具をそれぞれ教えていただけますか?
「こもる」
小菅:一番最初、どんなものを相良さんにお願いしようかと考えて、もぐるとかのぼるとか動詞のかたちでいくつかワードをお渡ししました。
相良:大きな稲藁でつくった屋根を葺いたこの「こもる」を真ん中にもってくるところから、全体を考えていきました。円錐形は屋根仕事ではやらないのですが、技術的には普段の仕事と同じ様に稲藁を葺いて屋根をつくっていきました。家の屋根と一緒で防水仕様なので、雨の日は中に”こもって”落ちてくる雨垂れを見るのがおすすめです。雨だと遊べないとなりそうですが、雨の日は雨の日の楽しみ方があるので、ぜひ雨宿りしてほしい。動きや視界に変化や遊びをつくるために大人も子どもも頭を下げて、視線を下げないとくぐれない高さに設定しています。
「のぼる」
相良:竹でつくる伝統的な下地組みで、切妻形と角錐形の方行を小さくした形をつくりました。そのまま茅を葺くこともできます。合掌造りの白川郷でも同じ形がありますね。普段の仕事でもあの下地の屋根を登りながら仕事しているのですが、見ている子どもたちがいつも登りたがるので、それを小さく登れるようにしてみました。
「くぐる」
最初「もぐる」としていたのですが、いつの間にか「くぐる」になっていました(笑)。一方は高さが変わっていくトンネルで、もう一方は横の広さが変わっていくトンネル。中央に竹で編んだドームをつくりました。「のぼる」同様竹ですが、竹編みは伝統的な茅葺仕事ではあまり使いません。でも竹という素材はいろいろな使い方ができて、「くぐる」のように簡単に空間/スペースをつくることができるんです。太陽が当たると竹の影がキレイで、時間による変化を見てほしいですね。
未来のためにするべきこと
・・・伝統的な茅葺のお仕事されていて、今回のようなものづくりは、技法は同じでも考え方は違うものだとも思います。
相良:昔から仮設の舞台づくりや装飾もやってきました。茅葺を知ってもらうきっかけとして、遠くにある家を見に来てもらうよりもこちらから出向こうと。法律上、茅葺の新築が建てにくいこともあって、伝統的な茅葺はどうしても減っています。単純に屋根の葺替えだけやっていては徐々に茅葺の仕事はなくなってしまう。今までなかったような茅葺の使い方が生まれていくことで、僕たちのあとの世代も飯を食っていけるようになります。
小菅:相良さんのところは若いスタッフが多いんですよ。
相良:20代が多いですね。僕は学歴がないのに高学歴の子ばかり来ます(笑) 大学で建築を真面目に勉強した人が茅葺におもしろさを見出すみたいです。コンクリートのビルを建ててもいずれ巨大なゴミになってしまう。授業で環境問題もやっていて中で、その矛盾を解消できていないと。今回のどの遊具も撤収を終えた後もゴミにならず、肥料等に再利用もできるんです。
大義ではなく知ってしまったから
・・・文化的なものとして茅葺を残していくことをどう考えいらっしゃいますか?
相良:大義があるわけではなく、茅葺というものを知ってしまっただけなんです。伝統や文化という目線で始めたわけではなく、当時は日銭が必要だっただけ。ただ関われば関わるほど、茅葺というものが本当によくできたもので、現代建築が課題としていることの多くを茅葺なら解決できるじゃないと思うようになったんです。それを独り占めしようと思えばできる。でも、連綿とつながって多くの人に渡していくものなんですよね、そもそも。弟子をとり、ワークショップをやり、取材を受け、メディアに出るのも、おじいちゃん、おばあちゃんからたくさんもらってきたものをお裾分けしているだけなんです。
・・・間を繋いでいるということですね。
相良:みんなで繋いできて残ってきたものなので、僕はたまたま今この時代を繋いでいるだけ。文化伝統を繋ぎたい、守りたいというよりも昔からのシステムを続けているだけなんです。
・・・堅苦しいものではなくてとても日常的なもので、昔は生活の中で農閑期に家や村のみんなで葺き替えをやっていた民衆の技術、文化だった。それが現代では特別な人の技術になっているわけですよね。
相良:スペシャルなものに”なってしまった”ということですね。ある種のねじれみたいなものがある。それを日常的なものに戻したいという気持ちで活動しています。屋根を葺くまでいかなくても、目の前の素材を使って何かをつくるブリコラージュ的な能力はついていくと思うんです。能登の震災がありましたが、国や自治体の動きを見ても助けを待つだけではどうにもならない。自分たちでできることはやるという生き抜く力が茅葺のような伝統的なものの中に備わっていると思うんです。仕事を通じてその力や技術を再インストールしていきたいですね。
【Profile】
くさかんむり
神戸市北区淡河町を拠点に、伝統的な茅葺きの修復から現代的な茅葺きへの挑戦、より多くの方々に茅葺を知ってもらうためのワークショップやセミナーを開催。建物だけにとどまらず、様々な方向から茅葺きの持つ可能性や魅力を探り、引き出し、磨き上げて、今を生きる人達にお届けするという目的を共有した職能集団です。
相良育弥
1980年生まれ。株式会社くさかんむり代表。茅葺き職人。
平成27年度神戸市 文化奨励賞/第10回地域再生大賞 優秀賞/ジャパンアウトドアリーダーズアワード2020 優秀賞/第14回創造する伝統賞
くさかんむり
小菅庸喜
「archipelago」店主
埼玉県生まれ。大学卒業後、2007年よりセレクトショップにてブランドプランナーを経験。2015年、風土に惹かれ兵庫県篠山市に暮らし始める。2016年、夫婦でセレクトショップ「archipelago(アーキペラゴ)」をオープン。買う環境やプロセスに着目し、消費のスピードを緩やかにすることを目指している。
archipelago